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なまけ者になりなさい ~追悼・水木しげるさん~

 2015年11月30日、漫画家・水木しげるさんが93年の生涯を閉じた。
 1922年、鳥取県境港市に生まれ、太平洋戦争時、激戦地であるラバウルに出征。
 爆撃を受け左腕を失う。
 復員後紙芝居画家となり、その後貸本漫画家に転向。
 代表作に『ゲゲゲの鬼太郎』『河童の三平』など。
 仏版『のんのんばあとオレ』が仏アングレーム国際漫画祭優秀賞、仏版『総員玉砕せよ!』で同漫画祭遺産賞受賞。

 妖怪漫画家、というイメージの強い水木さんだが、貸本漫画時代から戦記物を数多く発表してもいる。
 自伝的漫画『水木しげるのラバウル戦記』、中国で美しい娘を強制的に連行した知人の実話を元にしたという『姑娘』…。

『総員玉砕せよ!』  水木さん本人が「自身の著作の中で一番好きな作品」と位置づける『総員玉砕せよ!』は、内容の90%が経験に基づく事実である。
 本作品は第二次世界大戦中、南太平洋のニューブリテン島(現パプア・ニューギニアの一部)を占領した日本軍の日常と玉砕を圧倒的な画力で描いている。

 水木さんの投影であろう丸山二等兵を含む初年兵たちは日々上官に殴られる。
 兵士達は運んでいた丸太の下敷きになって死に、ワニに食われて死に、病で死ぬ。
 およそイメージする「戦死」とはほど遠い形で、日常的にあっけなく死んでいく。
 泣く暇もなく次の死がやってくる。
 丸山二等兵が、移動中に被弾し負傷した兵士の遺骨を作るため、小指を切り取るよう上官に命じられるシーンがある。
 「まだ生きてますよ」「早くやらんと敵の手に渡る」
 小指をシャベルで切り取られ、置き去りにされた兵士の「おめえたちゃあ行っちまうんか」という声が雨と弾雨に霞んでいく。
 戦時下、命は驚くほど軽い。

なまけ者になりなさい  作品後半、戦況は厳しく、年若い支隊長が「死に場所を得たい」と決意し、上陸した米軍相手に無謀な玉砕作戦が敢行される。
 しかし数十名が生き残ってしまう。
 ひとたび玉砕した部隊が存在する不名誉を許さないのが日本の軍隊であった。
 責任を取らされるべくしての最後の突撃を前に「なんのために戦争してるんだ。どこをなんのために守るんだよ」という兵士のつぶやきが痛々しい。
 ラストで丸山二等兵は『女郎の歌』を歌いながら倒れる。
 「私はなんでこのような つらいつとめをせにゃならぬ…」あとには累々と横たわる死体。

 「ぼくは戦記物をかくとわけのわからない怒りがこみ上げてきて仕方がない。
  多分戦死者の霊がそうさせるのではないかと思う」
 本作品のあとがきで水木さんは書いている。
 決して言葉にして「戦争反対」とは言わなかった水木さん。
 平和について問われ、ただ、「生きることが大事」と答えている。
 想像を絶する激戦地で、左腕を失い生死の境目を行き来した経験が、作品の根底を流れているのかもしれない。

 故郷、境港市に建つ水木さんの胸像には、「なまけ者になりなさい」という言葉が刻まれている。
 国のため、名誉のため、と自由も人権もなく散っていった命を描き続けた表現者の強烈なメッセージである。

 ~幸福の七カ条~「水木サンの幸福論」(角川文庫)より
  第一条 成功や栄誉や勝ち負けを目的に、ことを行ってはいけない
  第二条 しないではいられないことをし続けなさい
  第三条 他人との比較ではない、あくまで自分の楽しさを追求すべし
  第四条 好きの力を信じる
  第五条 才能と収入は別、努力は人を裏切ると心得よ
  第六条 なまけ者になりなさい
  第七条 目に見えない世界を信じる